アウェイサポーターの入場禁止措置も無意味? スタンドでの殺人事件を防ぐ術はあるのか

2017.04.21 アルゼンチン1部リーグ 2016-2017
▲ 今回の暴行事件で命を落としたエマヌエル・バルボさんがスタンドから投げ落とされる瞬間。この直後、バルボさんは頭を強く打って後日死亡した

4月15日にアルゼンチンのコルドバで行われたクラシコ「ベルグラーノ vs タジェーレス」のスタンドで、サポーター同士による争いが勃発。その果てに、理不尽な暴行を受けた観客の男性一名が死亡した。悲劇を未然に防ぐことはできなかったのか。

事件が発生したのは、コルドバのエスタディオ・マリオ・アルベルト・ケンペス。ベルグラーノのサポーターが集まるスタンドの一角で観客同士による小競り合いが発生すると、やがて特定の男性への集団暴行に発展。ターゲットにされた男性は、複数の観客に抱え上げられてスタンドの下へ投げ落とされた。被害に遭った男性は頭を強く打って病院に搬送されたが、意識不明の重体に陥った末に17日の朝に息を引き取った。亡くなったのは22歳のエマヌエル・バルボさん。死因は、投げ落とされて頭を強く打ったことによる脳挫傷だった。

小競り合いの発端は、とある男性がバルボさんを「こいつは宿敵(タジェーレス)のインチャだ!」と、あらぬ言いがかりをつけたことにあった。その言葉を鵜呑みにした数名が暴行に加担し、その後バルボさんは数名によって抱え上げられてスタンドの柵から下の階へ投げ落とされた。頭を強く打って微動だにしない被害者の様子は、居合わせた観客がスマートフォンなどで撮影していて、その動画はWEB上にもアップされた。

バルボさんは即死ではなく、病院に搬送されたときには意識不明の重体であったが、治療の甲斐もむなしく17日に死亡。当局は傷害罪から殺人罪に切り替えた上で、容疑者とされる4人を逮捕・拘束した。

息子を失ったバルボさんの父親はメディアの前で気丈に振る舞っていたが、実は2012年にバルボさんの実弟がひき逃げ事故によって命を落としていて、そのときの犯人とされる人物とバルボさんがスタンドで遭遇した末に口論に発展したことが、暴行死の引き金となったとも報じられている。数年の間に愛する息子を二人も失った、父親の胸中はいかばかりか…。

上記を受けて、ベルグラーノの公式サイトは犠牲者への哀悼を表した上で「あらゆる暴力を認めない」とする声明を発表。クラブのエンブレムに喪章を着けるデザインに差し替えたロゴを掲載して、哀悼の意を表した。そして今回の加害者とされる対象者について、無期限でスタジアム入場禁止措置を講じると明らかにしている。

隣国ブラジルでもしばしば発生することだが、アルゼンチンの国内リーグではサポーター同士による暴動が後を絶たない。その防止策として、アルゼンチンのリーグではアウェイサポーターの入場禁止を徹底しているクラブチームも少なくない。
今回の事件が発生したスタジアムで殺されたエマヌエル・バルボさんはれっきとしたベルグラーノのサポーターだったのに、あらぬ言いがかりをつけられた末に悲劇の死を遂げた。ホームのサポーター同士でこのような事件が発生してしまうようでは、もはやアウェイサポーターの入場禁止措置を以てしても絶対的かつ効果的な対策とはいえない。サッカーと暴力が結びついてしまう由々しき連鎖に、アルゼンチンサッカー界は頭を痛めている。